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肛門周囲膿瘍

Q

  • 肛門周囲膿瘍の処置において、抗生物質で様子をみるか、すぐ切開するかの見極めは?

A

  • 小さくて痛みの軽いものは抗生物質を処方して2〜3日様子をみても良いが、痛みの強いものはすぐ切開すべきである。波動を伴わない硬結の場合、切開してもすぐには排膿しないことがあるが、その後排膿しやすくなる。
  • Keyword 肛門周囲膿瘍・肛門小窩・切開排膿・痔瘻・局所麻酔

  • 肛門周囲膿瘍は、肛門小窩に開口する肛門腺への細菌感染(主にE.colli)により膿瘍が形成されたものである(crypt glandular infection theory)。
  • 膿瘍の自然排膿や切開排膿後、膿瘍腔は縮小して原発巣を形成し、肛門縁開口部(2次口)までが瘻管となり痔瘻が形成される。肛門周囲膿瘍の治療の原則は切開排膿であり、将来痔瘻の治療を行うことを考え、肛門の変形や機能障害を残すことのないように注意すべきである。

肛門周囲膿瘍の発生

肛門周囲膿瘍の皮膚の外傷、化膿性汗腺炎、異物の侵入により発生することもあるが、原因の大部分は肛門小窩からの細菌の侵入によって肛門腺感染を起こし、膿瘍を生じたものである。炎症は内、外括約筋間の抵抗の少ない方向に、時に筋層を越えて波及しさまざまな部位に膿瘍を形成する。詳細は成書に譲るが、日常よく遭遇するのは内外括約筋腔で膿瘍が増大し、歯状線から下方に下がって皮下外括約筋周辺に膨隆を形成する低位筋間膿瘍である。(図1

症状と診断

一般に数日前から肛門痛が出現し、その疼痛が急激に強くなり、発熱と肛門周囲のしこりを主訴に受診することが多い。急激に腫大し自壊した時は、黄色膿や血膿を認め、疼痛は激減する。激痛を伴っている場合が多いので、診察は患者が楽なSims位で行う。まず肛門外縁を示指で押し、圧痛の有無、部位を確認する。膿瘍が皮下の表層であれば膿の黄色が透見され、皮膚に波動を有する。もう少し深ければ局所の皮膚は発赤を呈する。次に示指と母指で肛門縁を挟むようにして膿瘍を触知する。(双指診)。低位筋間膿瘍では比較的限局した疼痛を伴う腫張、硬結として触知する。外括約筋層を越えると臀部の半分まで蜂窩織炎が広がり、浮腫と発赤、波動が感じられる状態(坐骨直腸窩膿瘍)となる。

注意すべき疾患として、壊疽性筋膜炎(Fournier’s gangrene)がある。一見して通常の肛門周囲膿瘍と思われるのに、急速に全身状態が悪化し、ショック状態となり死の転帰をとることがある。発赤した皮膚の周辺の著明な浮腫や、部分的な黒色壊死部(black spot)、皮下気腫などが特徴である。非常に稀な病態であるが、本症が疑われる場合はすぐに転送する。

図1 肛門周囲の膿瘍の分類

図1 肛門周囲の膿瘍の分類

治療の基本

肛門周囲膿瘍がすべて痔瘻に関わるわけではなく、感染性アテロームのように皮膚からの感染で発生したものや、膿皮症、毛巣瘻といった疾患の膿瘍期もある。しかし原疾患が不明な場合でも、膿瘍であれば切開排膿が第一選択である。小さな硬結の状態であれば、稀に抗生物質の投与で軽快することもあるが、波動を認める例では時期を逸することなく切開が必要である。また、すでに自壊し排膿しつつある症例でも、切開することによって治癒を促進できる。

乳幼児の肛門周囲膿瘍

生後2〜3ヶ月以降に発症することが多く、1歳以上での発症は稀である。男児に多い、肛門の左右側方が圧倒的に多く、同時に複数部位に存在している例もみられる。乳幼児健診で指摘されることが多く、比較的早期の症例が多い。したがって、切開排膿術を行えば十分であり、肛門括約筋損傷をきたすような外科治療は避けるべきである。助手に乳幼児の躯幹、下肢を固定させれば局所麻酔の必要はなく、膿瘍の膨隆部をメスで5mmほど切開するだけで排膿できる。ドレーン挿入や経口薬は必要なく、切開創に塗布する抗生物質入り軟膏を処方しておくとよい。

成人の肛門周囲膿瘍

体位は腹臥位とし(載石位が最も視野が良いが、患者にとっては最も恥ずかしい体位である)、左右の臀部をガムテープで牽引すると良い視野が得られる。深部の膿瘍では仙骨硬膜外麻酔や腰椎麻酔が必要だが、日常よくみられる皮下浅層の膿瘍なら局所麻酔でも可能である。ただし、炎症部分への局所麻酔は疼痛が強いため、25〜27Gくらいの細い注射針を使用する。患者の不可視の部位に対する操作であるので、不安を取り除くため逐一言葉をかけて注射針を刺入することが肝要である。

続いて、左示指と母指で膿瘍を挟み範囲を確認し、膿瘍の皮膚に近い部分、波動の中心を切開する。線状切開だと、すぐ皮膚癒着をしてドレナージ不良となるため、十字切開が良い。(図2)膿が流出したらペアン鉗子などで切開孔を拡張して膿の流出を促す。膿瘍が大きい場合に、あまり肛門から離れた位置で切開すると後の痔瘻根治術の際に創が大きくなってしまうため注意する。深くて大きな膿瘍でなければドレーンの必要はない。抵血小板薬などを使用していない限り止血は圧迫で十分である。

補助療法として、発熱などがあれば抗生物質の静注を、そうでなければ経口抗生物質(第1〜2世代セフェム系)と消炎鎮痛薬を3〜5日間投与する。入浴は切開翌日から許可している。排膿後に多くの症例が痔瘻を形成するので、後日肛門科を受診してもらう。

図2 十字切開

図2 十字切開

おわりに

肛門周囲膿瘍の治療は十分な排膿が重要である。しかし将来、痔瘻の治療を行うことを考えると、極端に大きな切開や、外括約筋の切開は肛門の変形や機能障害を残すことがあるので注意が必要である。また、肛門診察の際は患者が恐怖や羞恥心を抱かぬよう、医師およびバイスタッフは努めて明るく対応し、患者の緊張をほぐし、極力疼痛を与えないようにすることが要求される。

用語の説明
肛門小窩
  • 歯状線上には全周にわたって8〜10個の小窩が分布しており、肛門小窩(anal crypt)と呼ばれている。肛門小窩は異物の侵入や外傷によって引き起こされる炎症の原因とされている。
痔瘻
  • 一般的に腹腔内を含め皮下膿瘍などは、切開され体外に排出されれば、やがて治ってしまう。しかし、肛門周囲膿瘍の大部分が慢性化して痔瘻となる。これは膿瘍形成部分が肛門小窩、肛門小管など上皮性組織の管とつながっており、常に細菌の侵入が続くためである。
壊疽性筋膜炎(Fournier’s gangrene)
  • 肛門や泌尿器系を原発として、会陰部、陰茎、陰嚢に急速に進行する劇症型壊死性筋膜炎、外見上、局所的な膿瘍にみえるが、白血球は著明に増加し、会陰大腿鼠径の皮下ガス像を認める。膿の流出が少なく、悪臭のある褐色、漿液性分泌物が出たら本症を疑う。
文献
  • 1)Parks AG: Pathogenesis and treatment of fistula-in-ano. Br Med J 18 : 463-469,1961.
  • <crypt glandular infection theoryを提唱し、括約筋温存手術を紹介している>
  • 2)山本克弥、他:直腸肛門周囲膿瘍の治療.臨床外科55(8):991-995,2000.
  • <豊富なアトラスを用いて診察・切開の仕方が解説されている>
  • 3)岩垂純一:実地医家のための肛門疾患診療プラクティス.永井書店,2000.
  • <各領域の第一人者が肛門疾患を詳しく解説している>
  • 4)隅越幸男,他:肛門の病気をなおすQ&A.保健同人社,50-60,1981.
  • <著者の豊富な実績・経験から、疫学的成績も含め痔疾患をわかりやすく解説している>
  • 5) 柳田通:肛門周囲膿瘍・痔瘻外来治療のテクニック−切開開放術,Seton法.
  • 臨床外科51(5):570-573,1996
  • <診察・切開方法、投薬法などが具体的に示され、痔瘻の手術方法も解説されている>

この文章は、 「JIM vol.15 no6 2005-6」、

特集 外科系疾患に遭遇した時 外科系診療レベルアップL 肛門周囲膿瘍」に、

くにもと病院、院長、國本正雄と同院診療部長、安部達也が執筆した文章です。

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